小修繕を賃借人の負担とするとの特約が、賃借人に修繕義務を課したものとはいえないとされた事例  |  NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

 NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

内閣府認証
NPO法人日本住宅性能検査協会
「建築・不動産ADR総合研究所」(AAI)は建築・不動産を巡る紛争の予防および解決を目的とする第三者機関。有識者による7つの専門研究会、弁護士や一級建築士等による第三者委員会で構成。公正・公平な評価及び提言を行ないます

<判例紹介>
 小修繕を賃借人の負担とするとの特約が、賃借人に修繕義務を課したものとはいえないとされた事例 

 (名古屋地裁平成2年10月19日判決、判例時報1375号)

(事件の内容)

賃借人は、マンションの1室を住居として使用していたが、ある時、建物を明渡した。
その後、賃貸人は滞納分の家賃と、温水器の取替え費用の他、畳、襖、障子、クロス、絨毯の張替え、
ドアのペンキの塗り替え費用として、50万4200円を賃借人に対し請求した。

賃貸契約書には、「賃借建物についての修理、取替え(畳、フスマ、障子、ガラス、照明器具、スイッチ、壁、床、その他の外回り建具を含む建具、浴槽、風呂釜(バーナーを含む)その他の小修繕)は賃借人の負担において行う」という
特約(修理特約と略す)があり、また、「賃借人は故意過失を問わず、
本件建物に毀損、滅失汚損、その他の損害を与えた場合には、
賃貸人に対し損害賠償をしなければならない」という特約(賠償特約と略す)があった。

賃貸人はこの特約を根拠に裁判を起したのであった。

 (判決の要旨)

「本件修理特約は、一定の範囲の小修繕についてこれを賃借人の負担において行う旨を定めるものであるところ、 右特約は、一般に民法606条による賃貸人の修繕義務を免除することを定めたものと解すべきであり、 積極的に賃借人に修繕義務を課したものと解するには、更に特別の事情が存在することを要する

そして、本件においては、右特別の事情の存在を認めるに足りる資料はなく、50万円の礼金が授受されていること、賃借人が入居した際には前の居住者が退去したままの状態で入居している事実は、むしろ本件修理特約が賃貸人の修理義務を免除するに留まるものであることを推認させるものである。
したがって、賃貸人の修繕費用の請求は根拠がない。

本件賠償特約は、本件建物の毀損、汚損等についての損害賠償義務を定めるが、賃貸借契約の性質上 、そこでいう損害には賃借物の通常の使用によって生ずる損耗、汚損は含まれないと解すべきである。

この点についてみるに、賃貸人が請求する畳、襖、障子、クロス、絨毯の汚損は、建物の通常の使用によって生ずる範囲のものであったと認められる
ドアについては、賃借人の子が貼ったシールが多数あり、それを原状に復するにはペンキを塗る必要が在ったと認められから、通常の使用によって生じない程度に汚損していたことが認められる。 

結局、賃貸人の請求は、ペンキ塗替え費用2万円の損害賠償を求める限度で正当である。」

 (解説)

本件のような特約がなされことが多いが、道理にそって特約の解釈をした判決である。
修繕費を口実に敷金返却を家主が拒否するケースがあるが、参考になる事例である。