「こういうふうになったからには、一気にけりを付けたいのです。西ケ花桃子さんが黒に果てしなく近いグレーですよね。最初は定時上りで貴方と一緒に行動出来る良い機会だと思って引き受けたのも事実なのですが……」
 向かい側に座った人は白皙の頬が薄紅色の微笑みを浮かべている。
「私も祐樹と探偵ごっこという名目で一緒に仕事が出来て良かったと思っている。しかし、長楽寺氏が多数の女性に好き放題して……、それに苦しんでいる女性がたくさん――いや、直哉氏も瑠璃子さんの件でも被害者と言えば被害者なので男性も含まれる――居て白黒をはっきりつけないといけないと思うようになってきた。森技官の友達だか知人だかはまだ海外に居るだろうけれど、彼なら色々な伝手(つて)を持っているので……」
 厚労省内部でも事務次官に最も近いと(もっぱ)らの噂だったし、それに外面(そとづら)は良いのは知っている。その上色々な省庁に所属している人の弱みを収集して将来に備えている。生命保険会社との契約内容に最も近いのは――正攻法だけではなくて弱みを握った人間も含めて――森技官が適任だ。
「そうですね……。ああ、私のスマホで掛けたら『呪いの留守番電話』とやらに切り替わる可能性が有ります。こういう正念場でイラっとさせられるのも嫌なので貴方のスマホから掛けて貰えませんか?最初からストレスの掛かる言葉を聞いた後に即座に冷静さに切り替えるのも出来ないことはないですけれども、相手は『あの』森技官なので」
 最愛の人がスマホを取り出している。何だか嬉々としたような表情を浮かべながら。
「私が祐樹の役に立てるのなら」
 白く長い指が水の流れるような感じでスマホを操作している。
「祐樹に替われば良いのか?」
 考え事をする時の癖で唇を引っ張ってしまった。
「その辺りは臨機応変に行きましょう……。貴方から話した(ほう)(かど)も立たないような気も致しますし……」
 森技官には西ケ花さんを口説く役を演じて貰っている。その時は祐樹が弱みに付け込む「取引」をしたのだけれども、今度の「お願い」はいわば「交渉」なので、最愛の人の方が当たりは柔らかいような気もする。それに交渉なら最愛の人もかなりの能力が有るので安心だし。それに気の()いている今は森技官の嫌味な返答に祐樹が応戦するといったやり取りにならない(ほう)が望ましいのも確かだ。そういう会話も嫌いではないものの、今は避けたいような気がする。
「分かった」
 最愛の人のスマホは祐樹も会話に参加できるようにと思ったのかスピーカー機能を使って応接用の机に置かれている。
『もしもし、森です、香川教授何か進展でも有りましたか?』
 電話の向こう側からやや面白がっているような感じの声が流れてくる。
「こんばんは。長楽寺家の使用人である野上さんから二年前に故長楽寺真司氏は不可解な行動が有ったと証言を得まして。それで確かめてみたのですけれども、西ケ花桃子さんとの養子縁組が二年前だったと戸籍謄本から分かりました。生命保険の契約締結が何時(いつ)なのか気になりまして。西ケ花さんは養子縁組の件は(とぼ)けられたのです。そして真司氏が亡くなった太田医院――ああ、この病院は運営方法にかなりの問題が有りまして、その件についてのご報告を公式にさせて頂きたいと思っています――そのカルテから二年前から真司氏のコレステロールの二つの値が異常な変化を遂げています。奇数月に突出して高い数値になっているという結果が累々と。そして西ケ花さんが故長楽寺氏をマンションの部屋に呼ぶのは偶数月なのです。そのことから西ケ花さんが高コレステロールの食事を作って長楽寺氏に食べさせたのではないかと私達は推論しています」
 怜悧な口調で淡々と話す最愛の人の話を聞いていると思しき森技官は10秒くらいの()を置いている。
『……まずは太田医院の件の報告書、お待ちしています。必要とあらば監査に入りますので。……コレステロール値の件は非常に興味深いのですけれども、愛人のマンションに行っているのは一日とかですよね?その一食や二食でそんなに影響って出ますか?』
 確かにその点が弱いかも知れないなと祐樹も思ってしまった。
「出ると考えています。アメリカのレポートでちょうどそういう医学的根拠を明示したものがあるので、それを添付してお送りしますけれど……。長楽寺氏の配偶者である佳世さんは家族性高脂血症でして……。生まれつきコレステロールが血管に溜まりやすい体質です。なのでご家庭では低コレステロールの食事がメインです。また接待という名目で色々と食べ歩いたり飲み歩いたりしていたようですけれども、それは偶数月も奇数月も同じです。異なる点はやはり西ケ花さんのマンションを訪れているかどうかなのです……。
 で、二年前以前の長楽寺氏のコレステロールの二つの数値は高止まりこそしていますけれども、突出はしていなかったです。二年前からの奇数月の数値が高くなるといった現象は人為的なモノだと考えています」
 そんなレポートが有ったとは知らなかった。日本の専門誌は祐樹も目を通しているけれどもアメリカまではカバーしきれていない。その点最愛の人の事務処理能力と卓越した記憶力でそういったモノまでキチンと覚えているのだろう。
『ほう。人為的と(おっしゃ)いましたね。それは西ケ花さんが引き起こしたとお二人は考えていらっしゃるのでしょうか?』
 やや興味深そうな感じの声だった。最愛の人が祐樹の目を真っ直ぐに見つめてくる。その真摯で熱意を帯びた眼差しに見惚れながら頷きを返した。
「今のところそう考えています。それに森技官もご存知だと思いますが、西ケ花さんはそのう……」
 言葉に詰まっているのは西ケ花さんの言う「女の格」という独特の価値観が理解出来ないとかそういう問題だからだろう。祐樹のターンかも知れないなと思いながら言葉を選んだ。





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