ただ、鬼の情緒というか気持ちには恋愛感情も含まれているのだろうか?主人公が最初に対峙した強い鬼は家族愛に飢えていた。それに遊郭に居た鬼の妹はどうやら鬼のボスに対して特別な感情を抱いていた感じで描かれていたし、懐いた感じで寄り添っていた記憶がある。
 ただ恋愛感情とまでは行かない描かれ方をしていたし、兄の鬼に対しての兄妹愛の(ほう)が勝っていたような気がする。鬼は恋愛感情が欠落していてもおかしくないなと祐樹などは思ってしまう。ただ小林さんは異なったふうに聞いたのだろう。
「やはり頭がおかしいからですよね……」
 小林さんは嬉しそうな表情を浮かべている。名前も顔も知っている「有名人」しかも博学な――最愛の人は博学というレベルを遥かに凌駕していて知識の宮殿だと個人的には思っていたが、そんなことは小林さんに説明するほどの問題ではない――人に自説を認められたのが嬉しいのだろう、多分。
「またどこかでお会い出来たら良いですね。こういうのは『聖地巡礼』とか言うのでしょう?」
 そろそろ話の切り上げ時かと判断してそう告げた。
「そうですね……。思いもかけない楽しいひと時を有難うございました。『あの』香川教授と田中先生にまさかお目に掛かれるとは思ってもいなかったですし、アニメの話が出来るとは……」
 小林さんの言う「あの」が最愛の人の名前だけに掛かっているのか祐樹までを含むのかは分からないけれど、わざわざ聞くことでもないだろう。
「ああ『聖地巡礼』ですけれども、近場でしたら『京都鉄道博物館』がお勧めですよ。実際には乗ることは出来ませんけれども『無限列車』とそっくりな車体を見ることは出来ます。ではまた、ご縁が有ればお会い出来るでしょう」
 ペコリと頭を下げている小林さんに返礼をしてその場を離れた。
「足元にはくれぐれもお気をつけて下さいね。貴方が手を差し伸べて下さらなかったら後頭部を強打していたかもしれない私が言うのも何なのですが……」
 最愛の人は気にしていないようだったけれども一抹の罪悪感を覚える。
「分かった。ただ、祐樹を転倒から救えて本当に良かった」
 紅色の安堵の溜め息を零す最愛の人の笑みに意識が集中してしまいがちなのを何とか理性で足元へと注意の矛先を向けた。
「私も後頭部を打ったら病院沙汰になりますよね?色々と検査を受けないといけなくなるので、本当に有難うございました」
 言うまでもなく頭は重要な部位なので脳内出血を起こしていないかなどを調べる必要がある。吐き気を催したらほぼ確実に脳内出血で、場合によれば手術を受けないといけない。
 そんな事態にでもなれば大学病院にも迷惑をかけてしまう。もちろん、最愛の人や香川外科の医局の皆にも。そんなことにならなくて本当に良かったと。そして咄嗟に手を差し伸べてくれた最愛の人には感謝しかない。
 祐樹も最愛の人が万が一にも転倒しないように気を配って歩いた。
「いや、恋人として当然のことをしただけなので祐樹がそんなに気を揉む必要はないと思う。それに万が一私が転倒しかけたら祐樹が支えてくれるだろう?」
 疑問形だが確信に満ちた口調だった。
「それはもちろんです。私の場合は頭部が危なかったのですが、そして脳に損傷でも負った場合はかなり厄介な事態にもなりかねませんけれども、貴方のその指や腕に損傷をと思っただけで怖いです……」
 最愛の人の一番重要な物というか人は祐樹だ。
 その点は大変光栄だし、彼に愛想を尽かされないように大切にしたいと思っている。ただ、祐樹も最愛の人に揺るぎない愛情を生涯抱き続けることが出来るとは思っている。
 二番目は心臓外科医としての矜持(きょうじ)だ。たまに祐樹は詰まらない独占欲に駆られてしまって衝動的に(ずっとこの人が自分だけを見て、考えてくれれば良いのに!!)と思うことは有る。それこそマンションの部屋に閉じ込めて祐樹だけしか接触する人間が居ないようにしたいとか。世界で有数の外科医という「公器」という部分を取り外してしまいたいとか。
 ただ、最初のうちはそれで良いかも知れないけれども彼の精神が健全ではなくなるのはほぼ確定だろう。
 祐樹の恋人として、そして外科医としの――祐樹から見れば充分過ぎるほどにハイレベルな手技をこなしているけれども、彼自身は(おのれ)の手技に満足はしていなくてさらに高みへと目指している点も大好きだ、外科医としても個人的にも――どちらかが欠けても駄目な人だと祐樹は分析していて、それは多分合っているだろうと思っている。
 それに祐樹の腕の中に居る時の艶やかな肢体も表情もこの上もなく淫らで無垢な祐樹だけに見せる表情や素肌も宝石のように貴重だ。しかし、完璧という言葉では足りない手技の数々や病院内を怜悧かつ端整な表情で颯爽と歩く姿もこの上もないほど愛おしい。
 祐樹個人としてはその二つの姿を見ることが出来ることこそ貴重だと思っている。
 本能の赴くままに衝動的に独り占めしたいとは思うけれども、理性ではこの関係が末永く続く(ほう)が良いと考えている。多分、いや確実に最愛の人もそう考えている。そしてその考えは正しいと思う。
「指を骨折でもしたら、患者さんにも迷惑を掛けてしまうので気を付けないといけないな……」
 傘を持っていない(ほう)の革の手袋をはめた指を雪をバックにして空中にかざしている。手袋の厚みは有るものの、それでも長く細い指だった。
「そうですよ。こうして二人きりの時には最高に愛し合う恋人ですけれども、病院の看板教授として貴方を慕う患者さんには優れた外科医なのですから……。私はどちらの貴方も大好きですよ」




--------------------------------------------------
二個のランキングに参加させて頂いています。
クリック(タップ)して頂けると更新のモチベーションが劇的に上がりますので、どうか宜しくお願い致します!!


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村



小説(BL)ランキング
2ポチ有難うございました<m(__)m>






























































腐女子の小説部屋 ライブドアブログ - にほんブログ村




PVアクセスランキング にほんブログ村