「書きますから『もう良いよ!』と言うまで瞳を閉じていて下さいませんか?」
 最愛の人がパパラチアサファイヤのような煌めく笑みを浮かべていた。
 祐樹は買ったことはないが、最愛の人に贈るために百貨店の宝石売り場で見た覚えがあった。そのピンクとオレンジの光が最愛の人の今の笑みとそっくりのような気がした。
――お値段もかなりしたので彼がこよなく愛してくれている「祐樹のオーラの色」と言っていたその煌めきに似ていたので買おうかと思ったがお財布事情で諦めた一品だったというのは内緒にしておこう――。
「何だか鬼ごっこみたいで楽しいな。
 といっても、鬼ごっこは幼稚園の時以来した覚えがないが。
 同じ幼稚園で、大きな家に住んでいた中村君のお家で遊んだ覚えが有る。今思うとそれほど大きい家ではないが、当時の私にはお屋敷に思えた。
 中村君は小学校から私立に行ったので、それ以降の付き合いはないが……」
 最愛の人の笑みが懐かしさの煌めきに満ちている。
「鬼ごっこですか?してみたいですか……」
 最愛の人が子供らしい遊びをしていたのも何だか微笑ましいけれども、それ以降はしていないのだったら、そして彼が望むなら一緒に興じるのも悪くないなと思った。
 なにせ、子供の頃にはそれほど遊びとか行事をしていないといことは彼の口から聞いていたので。
 神戸の六甲山にドライブデートに行った時にアポ〇チョコを「ずっと羨ましく思っていた」とか言っていた人なので。祐樹は鬼ごっこを――何せ田舎なので隠れる場所には事欠かない――飽きるほどしていた過去が有るし、大人になってからはする気も皆無だったけれど、最愛の人が望むならば、しても良いと。
「いや、今日は七夕の日だろう?熱烈に愛し合っている恋人らしいことだけで充分だし、大人になってから鬼ごっこをする気も無くなっている。
 祐樹がそう提案してくれたことは純粋に嬉しいが……」
 律儀に目を瞑っている最愛の人の笑みはパパラチアサファイヤよりも綺麗な光を放っているようだった。
「そうですか?
 童心に帰りたい気分になったら仰って下さいね」
 筆ペンはサイン会に赴いた書店の中の一部で用意されていたので――ほとんどが油性のマジックだったが――書き慣れてしまっているのは幸いだった。
 最初に彼に書いたモノを渡したのは、出会って直ぐだった。後で聞いたら清水の舞台から飛び降りるほどの勇気を振り絞って携帯電話の番号を聞いてくれたらしいけれども、その時は反感も持っていたこともあって、たまたまポケットに入っていた製薬会社の紙に殴り書きした。今更最愛の人が祐樹の携帯番号を書いて欲しがるとも思えないが、あの時もっと丁寧に書いておけば良かったなとは思う。
 最愛の人は――どうやら使い勝手が良いらしい――エルメスのスケジュール帳について来た品質も最高(なのだろう、多分)のモノを使ってくれたと聞いてからは尚更にそう思ってしまう。後悔先に立たずではあるものの。
「いや、祐樹と隠れんぼをして遊ぶよりも…………寝室で二人の素肌を感じる方が宝石のように貴重な時間なので……」
 最愛の人の頬が紅さを増している。
 先ほど祐樹が服の上から触れて貰ったモノをまざまざと思い出したのかも知れない。
「もう良いよ……」
 わざと歌うように言った。ちょっとした鬼ごっこ気分を味わって欲しくて。
「『夫婦は二世というコトワザが有りますが、七回生まれ変わってもずっとこういう関係になれますように』か……。祐樹の気持ちが物凄く嬉しい、な……。
 変わらない愛情を一生ではなくて、輪廻転生した後も七回も恋人同士で居られると思うと」
 深紅の薔薇に水滴を宿したような笑顔だった。しかもその雫に朝の光が差し初めたようなあ。
「色々考えたのですが『親子は一世、夫婦は二世主従は三世』というコトワザが有りますよね?まあ、江戸時代だかに出来たモノで、大名とその家臣の忠誠を強めるためだろうとは思いますが、貴方となら七世以上生まれ変わって巡り合いたいです。生まれ変わって何度でも貴方だけ恋に落ちたいです。
 聞きかじりですが、前世の記憶も無くなっているらしいのですね。しかし、何度生まれ変わっても貴方を探し出して最初から――出来れば誤解とか遠回りはナシの方向で――恋のプロセスを楽しみたいです。
 七にしたのは、七夕だからという理由です」
 一応種明かしをすると最愛の人の表情が繊細に、そして華やかな笑みを浮かべていた。
「私も同じ気持ちだ……。
 ただ、祐樹に一目惚れをしたのは私なので、私の方が早く見つけ出せるような気がする……」
 器用に笹飾りに短冊を飾ってくれている。
 薄紅色に染まった指先が魔法のように動くのを見るのは――手術用の手袋で包まれたのは手術室のスタッフも見ることも出来るが――祐樹だけの特権だったし、その上祐樹の願い事のせいなのか、薄紅色というよりも紅色に煌めいていて、その優雅かつ繊細な指の動きからは金と銀の粉を撒いているような綺麗さだった。
「願いごとは一個ずつですか?」
 色々楽しく考えていたので、もっとたくさんストックがあって、もっと書けそうだった。
「あまり欲張りすぎるのも良くないとネットに書いてあった。
 確かに――まあ、内容は祐樹と末永く仲良く暮らせますように的な言葉だからそうでもないかもだが――たくさんの願い事をしたら織姫と彦星が混乱してしまうかも知れないな……。もっと書きたかったら短冊はまだ有るので大丈夫なのだが?」
 先に作っておいた笹飾りは二人の手先の器用さも相俟って物凄く綺麗だった。
「いえ、良いです。ベランダに飾るのでしょう?
 あ、雨が降っていますね……」
 リビングからベランダの方に視線を転じると割とまとまった雨が降っていることに気付いた。
 このマンションは値段に相応しく防音も完璧だったので雨音は聞こえなかったが。




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零細企業と呼ぶのも恥ずかしいレベルの代表取締役(兼お茶くみ・清掃係)な私ですが、経費節減のために事務所移転が決定しました。
そのため、多忙に拍車がかかりそうでして、当分は一話更新がやっとだと思います。
申し訳ありませんが(アフォリエイトはしていますが、ブログは趣味でして、ヒカキンみたいSNSで生計を立てるレベルの広告収入なんてないです 泣)仕事の方が優先順位が高いので、ご理解賜れば幸いです。
              こうやま みか拝






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