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映像作品とクラシック音楽 第39回 アニメ『新世界より』

2021-10-22 10:52:06 | 映像作品とクラシック音楽
一番好きな交響曲は?と言われるとほぼ迷いなくベト9と答えます。
ではベスト3は?と言われると、もう一本は迷い無く言えます。ドボ9です。
もう1枠が難しいですね。モツ41、ブラ4、チャイ5、マラ4、タコ7あたりが候補ですが…ってそういう話をしたいんじゃないです。
ドボ9です。「フロム・ザ・ニュー・ワールド」です。
その大好きなドボ9の副題を冠した作品がアニメ『新世界より』(2012年作品)です。
と言っても別にドボルザークの生涯を描いた作品ではありません。オーケストラの話でもありません。1000年後の日本を舞台にしたSF作品です。
原作はホラー小説の巨匠貴志祐介の同名小説です。
アニメは、ストーリーについては原作にほぼ忠実に作られ、全25話の作品です。
ざっとストーリー
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1000年後の日本。現在の茨城県付近、神栖66町は日本にいくつかしかない集落の一つで、人口はせいぜい数千。
この時代の人間は、「呪力」と呼ばれる超能力を持っており、手で触れずに物を動かすくらい当たり前、空気中に鏡を作るとか、空中を浮遊するとか、人によって特異な能力は様々。
この時代の人々の特徴は、人間同士で決して殺し合いはもちろん暴力も振るわない。なぜなら人間たちには遺伝子に「攻撃抑制」と「愧死機構(きしきこう)」が組み込まれている。愧死機構とは、簡単に言えば、人を殺せば自分も自動的に死ぬという呪力を悪用しないためのセーフティシステムのようなもの
人間たちが最も恐れる二つの存在。「業魔」と「悪鬼」。
業魔は呪力の漏出をコントロールできず周囲を変質させていく者。悪鬼は攻撃抑制と愧死機構が働かない者。どちらも人間社会を脅かす最大の脅威である。
そしてこの時代には、1000年前には存在しなかった異常な進化を遂げた多くの生物がおり、その中の一つに「バケネズミ」と呼ばれる、ハダカデバネズミ(アフリカにいる、1匹の女王を中心とした地下の巣で一族で暮らす、アリのような社会性をもった哺乳類)が人間くらいの大きさと人間程度の知能を持ったネズミたちがいる。
人間は、人間同士で暴力をふるうことはないが、人間以外には攻撃を行っても問題ない。バケネズミたちは軍隊を組織し弓や刀といった原始的な武器で武装もしているが、呪力をもった人間一人いれば一族を全滅させることもできるので、人間たちの庇護のもと、労働力として生きることを許されている。
物語は神栖66町で暮らす女性、渡辺早季と彼女の同級生たちの12才から26才までの半生を綴る。たった1000年で人類は世界は、なぜこうも変わってしまったのかを解きほぐしながら、早季たちの恋と友情、成長と喪失、業魔、悪鬼との遭遇、そして終盤ではバケネズミたちとの戦争が描かれる。
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ストーリーは抜群に面白く、特に早季が26才になってからの章は、原作でも貴志祐介のホラー描写が冴えに冴えわたった迫力の筆致となってますし、アニメでも緊張感がものすごくまさに手に汗握る展開で、原作読んでいるから展開分かっていてもなお、物語に引き込まれます。
原作知らないと設定についていけるのかと疑問を感じるところもないではなく、全25話とはいえ、少しばかり展開を急ぎ過ぎてる感じはありますが、それでも世界観とストーリーに引き込まれるでしょう。
アニメは絵柄に関しては、好みは分かれそうですが、キャラクターの陰影薄め線少な目のタッチは、細田守監督のアニメ作品なんかもそうですが、わりと最近流行ってる気がしますので、私は有りじゃないかなと思ってます。
何よりあの原作を実写化でなくアニメという表現方法で映像化したのは素晴らしい判断だと思います。1000年後の不思議な動物たちも、呪力の表現も、実写だとわざとらしくなりそうだし、何よりホラー的描写は実写だと本気でやるにはきつすぎだし、さりとてユルめにやったら無意味どころか逆効果。アニメ表現というフィルターにより原作イメージを損なわずに移植することに成功していると思います。
さてタイトルにもなっている「新世界より」ですが…
神栖66町では、毎日夕暮れ時に、町に唯一ある電気をつかった施設(呪力で明かりも動力も賄えるので、この時代では基本的に電気は使わない)の町役場が街頭スピーカーから「家路」、つまりドボルザーク第9番の第二楽章を放送します。
この曲が鳴ったらみんな家に帰りなさいという合図です。
早季たちの青春時代の思い出を喚起する曲となります。
音源が何かまでは分かりませんが、オーケストラの演奏です。
劇伴BGMが電子音中心なので、オケの音が印象的です。
といっても、前半から中盤にかけて、「家路」が効果的に使われるシーンは残念ながらありません
「家路」が存在感を出してくるのは終盤。早季の上司が悪鬼の襲撃を神栖66町の人たちに伝えるため、身の危険を顧みずに「家路」を流してアナウンスをします。そして・・・
さらにラストシーン。戦いが終わり、多くの犠牲を出したもののかりそめの平和が訪れた神栖66町の夕暮れにドボ9の「家路」が流れます。それを聞く早季の姿を、悲しみと決意を秘めた瞳に写りこむ夕日を見ていると、目頭が熱くなりました。
いつかすべての人たちが本当に幸せになれる日が来ることを願いました。
なんだかんだで夕暮れと「家路」、合いますよね。
ラストは第二楽章を結構な長尺で流してくれるので、長大な物語の余韻にたっぷりと浸らせてくれます。
とはいってもタイトルが『新世界より』なんだからさあ、バケネズミとの戦争のときや、魔都東京での戦いの場面で、第3楽章や第4楽章鳴らしてもくれてもいいのにな・・・あと、最強の呪力者鏑木肆星(かぶらぎ しせい)の敗北シーンは第一楽章の「デーテテ ドコドン チャラーーー」のとこでしょ・・・とかドボ9ファン的には、使いどころなんかいくらでもあったように思えて、少々残念な気がしないでもない複雑な想いも抱いてますw
ドボ9は、カラヤンBPOのCDを高校の時に買いました。自分で買ったクラシックのCDとしては2枚目か3枚目くらいのやつです。今でも結構な頻度で聴きます。カラヤンVPOのDVD持ってまして、それも何度も観返しました。他の指揮者の演奏も色々聞きかじりましたが、カラヤンが私には一番しっくりきます・・・
【余談】
早季の声をあてた種田梨沙さん。12才から26才まですべて演じており、声優ってすごい!!ッて思いました。1話から16話まではエンディングテーマの歌唱も担当。
その他キャラと声優について



→早季の幼馴染で準主役。演じるのは「進撃の巨人」エレン役などの人気声優でバラエティでも活躍の梶裕貴さん


真理亜
→早季の親友で恋人。そしてバケネズミ戦争のある意味できっかけとなる悲運の女性。演じたのは花澤香菜さん。17話以降のエンディング歌唱も担当。最近YouTubeですごくはまっていたサンライズのロボットアニメ「ゼーガペイン」でヒロインのカミナギちゃんを演じていて、そちらの声の演技も素敵でした。最近だと「鬼滅の刃」で甘露寺蜜璃を担当してまして、遊郭編の後の、刀鍛冶の里編で大活躍するはずです。


朝比奈富子
→神栖66町の最大の権力機関である倫理委員会の議長、つまり神栖66町で一番偉い人。齢260を超えるが見た感じ60才くらいに見える超寿命能力の持ち主。演じるのは「ナウシカ」のクシャナ、「Zガンダム」ハマーン・カーンの榊原良子さんという完璧すぎるキャスティング
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そんなところで、また!素晴らしいクラシック音楽と映像作品でお会いしましょう!!
#新世界より #ドボルザーク #貴志祐介

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