パワー・オブ・ザ・ドッグ (ジェーン・カンピオン監督作品) | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

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ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう

 

監督・脚本  ジェーン・カンピオン

原作 トーマス・サヴェージ

音楽 ジョニー・グリーンウッド

撮影 アリ・ウェグナー

編集 ピーター・シベラス

出演 ベネディクト・カンバーバッチ、キルスティン・ダンスト、ジェシー・プレモンス、

    コディ・スミット=マクフィー

2021年度 制作国 イギリス/オーストラリア/アメリカ/カナダ/ニュージーランド 

上映時間 2時間8分

 

 

「ピアノレッスン」で有名な女流監督ジェーン・カンピオンの最新作で、短期間の限定劇場公開後に、

今月からNetflixで配信されています。

タイトルは、聖書の『剣と犬の力(パワー・オブ・ザ・ドッグ)から、私の魂を解放してくれたまえ』

からの引用で、牧場経営で財を成した兄弟と安酒場の母子が一つの家族になったことによって

生じる軋轢を、一触即発の緊張感で見せた心理的バイオレンス映画で、じわじわと不安感を

煽る脚本と演出の面白さは、派手な見せ場(結果)を求める男性脳にはない、優れた言語能力を

生かしたプロセスで見せる女性脳だから成し得た傑作と言えます。

今年のヴェネツィア映画祭は ジェーン・カンピオンの監督賞受賞だけに留まらず、グランプリに

オドレィ・ディワン、脚本賞にマギー・ギンレホールと女性監督の作品が主要部門を独占して

話題になりました。アカデミー賞でクロエ・ジャオが作品と監督賞を受賞した事と合わせて、

男女間格差が問題だった映画界がジェンダー批判を意識した結果だと指摘する声もありますが、

その段階は既に終わっていて、女流監督という言い方で括る必要がないくらいに、優れた作品が

生まれている証左と言えるでしょう。

残念なのは、このような良質な作品が興行的な評価を得ないことで、マーベルの「エターナル」で

初めてエンターテイメントな作品に挑むクロエ・シャオが、ハリウッドに新風を巻き起こしてくれる事を

期待しています。