ヒステリーは、ギリシャ語の子宮が語源で、女性の心や体の不調は、子宮が原因であると
考えられていました。
また、中世の解剖学者は、女性性器をプデンダム(ラテン語の恥ずかしいという意味)と
名付けたり、キリスト教初期の神学者アウグスティヌスは、「われわれはみな大便と小便の間
から生まれて来た」と、女性性器を恥ずべき場所として大衆を洗脳して来たと言えます。
これは、日本でも「恥部」「陰部」「秘部」と表現されているように、女性性器は、快楽では
なく生殖のためにある器官という古い文化的な価値観が存在しているからです。
2000年前からアフリカ、中東、アジアの30か国で慣習として行われている女性性器切除(FGM)は、性欲をコントロール(結婚前の貞操を守るため)できるという考えで現在も実施
されていて、2008年に国連10の機関で、女性性器切除の廃絶を求める共同声明が発表されて
います。
Netfiixオリジナルドキュメンタリーの本作(3部構成の第1部)は、処女膜が他の皮膚と同じ
ように自然に修復されることやマスターベーションの必要性、クリトリスの構造が明らかにされ
たのが2000年代になってから等100年前に誕生したばかりの性科学の分野は、まだ基礎段階にあることが協調され、性に対する間違った通説や固定概念を正し、未開拓な快楽の地である
女性の体に、スポットライトが当てられた作品です。
オーガズムによってエンドルフィンが分泌されて、ストレスの軽減に繋がり、全般性不安障害の治療に有効であるという科学者の指摘と女性のための性具を同列に扱って、堅苦しくなりがちな
学術的な内容が、分かりやすく味付けされていて、学校での性教育の教材や茶の間で家族を
交えて観ても、差し支えない娯楽作だと思います。
カタルーニャには、「ヴァギナを見せれば海が鎮まる」という諺があります。
世界の伝承を見ると、嘗て女性性器は、自然の脅威を鎮める程の魔除けの力を秘めたもの
として、崇拝されていました。
本作で、無修正でカットインされる女性性器が、人の体の一部で、特別なものではないという、
社会のインセンティブを導き出すためには、私たち個人の知識と理解が必要なのです。
参考文献:ヴァギナ女性器の文化史 河出書房新社