表題のような状況を伝える2つのメディアの記事を紹介してみます。1つ目は、gcaptainという船舶業界情報サイトの報道(2022年5月14日付け)。ロイター電を転載しています。


以下、拙訳。

インド政府は14日、小麦の輸出を禁止した。猛暑により収穫が減少し、国内価格が過去最高となったためだ。今年の出荷量は過去最高を目指すと発表していたが、その数日後に禁止となった。

政府は、既に発行された信用状の裏付けがあり、「食料安全保障の必要性を満たすため」(“to meet their food security needs”)に供給を求める国には輸出を許可すると述べた。

海外出荷を禁止する動きは永続的なものではなく、修正される可能性があると、政府高官は記者会見で語っている。

各国のバイヤーは、2月24日のロシアのウクライナ侵攻を受けて黒海地域からの輸出が急減した事を受け、世界第2位の小麦生産国からの供給に信頼を寄せていた。禁止前、インドは今年、記録的な1000万トンの出荷を目指していた。

関係者は、今年は小麦の生産量に劇的な落ち込みはなかったが、無秩序な輸出が現地価格の上昇を招いたと付け加えた。

BVR サブラーヤーマン商務長官はニューデリーで記者団に「我々は小麦の取引が無秩序に行われたり、買い占めが起きたりしないようにしたい」(“We don’t want wheat trade to happen in an unregulated manner or hoarding to happen,”)と語った。

世界有数の小麦輸出国ではないものの、インドの禁止令は、既に供給が逼迫している中、世界価格をWv1のピークに押し上げ、特にアジアとアフリカの貧しい消費者に大きな打撃を与える可能性がある。

ムンバイに拠点を置く世界的な貿易会社のディーラーは、「この禁止令は衝撃的だ」(“The ban is shocking,”)と語っている。「我々は、2〜3ヶ月後に輸出が抑制されると思っていたが、インフレの数字が政府の考えを変えたようだ」(“We were expecting curbs on exports after two to three months, but it seems like the inflation numbers changed the government’s mind.” )と語っている。

食品とエネルギー価格の上昇により、インドの年間小売インフレ率は4月に8年ぶりの高水準に達しており、中央銀行がより積極的に金利を引き上げるとの観測が強まっている。

インドの小麦価格は過去最高を記録し、一部のスポット市場では政府の最低支持価格である2万150ルピーを大幅に上回る1トンあたり2万5000ルピー(320ドル)に達している。

燃料費、人件費、輸送費、包装費の高騰もインドの小麦粉の価格を押し上げている。

「小麦だけが原因ではない。全体的な価格上昇でインフレが懸念され、そのため政府は小麦の輸出を禁止せざるを得なかった」(“It was not wheat alone. The rise in overall prices raised concerns about inflation and that’s why the government had to ban wheat exports,”)と、別の政府高官は語っている。「我々にとっては、用心に用心を重ねた結果だ」(“For us, it’s abundance of caution.”)。

インドでは、4月1日に始まる会計年度の記録的な輸出目標を概説し、モロッコ、チュニジア、インドネシア、フィリピンなどの国々に貿易代表団を派遣し、出荷を増やす方法を検討すると発表した。

また、政府は2月に生産量を1億1132万トンと6年連続の過去最高を見込んでいたが、5月に1億500万トンに引き下げた。

3月中旬に気温が急上昇したため、収穫量は1億トン前後かそれ以下になる可能性があると、ニューデリーに拠点を置く世界的な貿易会社のディーラーは語っている。

「政府の調達量は50%以上減少している。スポット市場では、昨年よりはるかに少ない供給量となっている。これら全てが、作柄の低下を示している」(“The government’s procurement has fallen more than 50%. Spot markets are getting far lower supplies than last year. All these things are indicating lower crop,” )と、このディーラーは指摘している。

ロシアがウクライナに侵攻した後の世界的な小麦価格の上昇に呼応して、インドは3月までの会計年度に前年度比250%以上増の700万トンの小麦を輸出した。

ニューデリーのトレーダー、ラジェッシュ・パハリア・ジャイン氏は「小麦価格の上昇は緩やかな方で、インドの価格はまだ世界価格よりかなり低い」(“The rise in wheat price was rather moderate, and Indian prices are still substantially lower than global prices,”)と話す。

「昨年でも一部地域の小麦価格は現在の水準まで跳ね上がっていたのだから、輸出禁止の動きはお約束的反応以外の何物でもない 」(“Wheat prices in some parts of the country had jumped to the current level even last year, so the move to ban export is nothing but a knee-jerk reaction.”)としている。

生産量の減少や国営インド食料公社(FCI)による政府買い入れにもかかわらず、インドは今年度、少なくとも1000万トンの小麦を出荷できたはずだ、とジャイン氏は言う。

インド食料公社が国内の農家から購入した小麦は、昨年の記録的な4334万トンに対し、これまで1900万トン余りである。公社では、貧しい人々のための食糧福祉プログラムを実行するために、地元の農家から穀物を購入している。

例年と違って、農家は政府の固定相場より良い価格を提示する民間業者に小麦を売ることを好んでいる。

4月、インドは過去最高の140万トンの小麦を輸出し、5月には約150万トンを輸出する契約が既に結ばれている。

「インドの輸出禁止は世界の小麦価格を押し上げるだろう。今、市場には大きな供給者がいない」(“The Indian ban will lift global wheat prices. Right now there is no big supplier in the market,”)と別のディーラーは語った。

拙訳終わり。続いてエジプトのアル・モニターから(2022年5月16日付け)。


インドが小麦の輸出を制限した事を受け、小麦価格は今日大幅に上昇した。この動きは特にエジプトに影響を与える可能性がある。

シカゴ小麦先物は16日約5%上昇し、1ブッシェル当たり12.40ドルとなり、2008年以来の高値となった。この指数は世界の小麦価格のベンチマークとされている。1ブッシェルはおよそ35リットルに相当する。

価格上昇は、インドが週末に食糧不足の危険性を理由に小麦の輸出を禁止したのを受けての反応だ。インドは2020年の小麦輸出の約0.5%を担っているに過ぎないが、世界有数の小麦生産国であり、ロシアによるウクライナ戦争の中で、より多くの小麦の輸出を検討してきた。ウクライナとロシアはともに小麦のトップ輸出国であり、この戦争によって世界の小麦市場は混乱している。

なぜそれが重要なのか。エジプトは世界最大の小麦輸入国であり、戦争前は小麦の約80%をウクライナとロシアから輸入していた。

エジプトは、戦争の中で、国内生産を拡大し、小麦の輸入をインドに頼っている。昨日、エジプト政府は、インドから50万トンの小麦を購入することに合意したと発表した。

輸出禁止は、今のところエジプトへの小麦輸出には影響しない模様だ。インド政府関係者は、既存の契約は履行されると述べたと報道されている。

次はどうなるのか インドの小麦が具体的にいつエジプトに届くかは不明である。国営通信社アル・アハラムは5月14日、出荷は「間もなく」到着すると報じている。
拙訳終わり。短い記事ながら、ビビりまくりなのが分かります。怖いのは、イスラム原理主義者が跋扈する国である事。政情不安になったら、それに乗じるのが火を見るよりも明らかです。

そして、スエズ運河を運営している国である事も、忘れてはなりません。輸入外貨の獲得に向け、通行料を値上げする危険性があります。そもそも、今年3度値上げしている事を、どれだけの日本人が知っているのでしょう。輸出にも輸入にも影響が出ているというのに。

そして、こういう状況が続けば…。