今年は三島由紀夫の生誕百年ということで文芸誌も三島特集を組んでいる。
わたしは現在、山川方夫論を執筆しているが、三島文学との共通性を感じないでもない。先日、二十年ぶりに自分の書いた『三島由紀夫・文学と事件』(D文学研究会刊/星雲社発売)を読み返した。この本に収録した「仮面の告白」論は二〇〇四年八月八日、留学先の韓国で書き始め、百八十枚ほど書いて九月一日に帰国、十一月十日に書きあげた。七百枚ほどの論考を三か月で書きあげたが、今は神経痛で仕事量は半減した。
わたしの三島論は「仮面の告白」論を書きあげたことで終わった。この作品に三島文学の本質が表現され切っているように思えたからである。
清水正の著作、D文学研究会発行の著作に関する問い合わせは下記のメール shimizumasashi20@gmail.com にお送りください
定価1800円+税 四六判上製258頁 書店、アマゾンで購入できます。
半世紀以上にわたってドストエフスキー論を書き続けている清水正の体験批評、解体・再構築批評の本源愛に迫る。
清水正の著作、D文学研究会発行の著作に関する問い合わせは下記のメール shimizumasashi20@gmail.com にお送りください
清水批評の〈冒険〉の軌跡を日芸の先輩であり友である著者が独自の筆致で語る友愛あふれる労作
此経啓助著『文芸批評の冒険─清水正とわたし』に所収の「「全集」とアイデンティティ」の中に「周知のように、清水氏は学生時代からドストエフスキーを熱く語る批評家で、在学中に『ドストエフスキー体験』(清山書房・一九七〇年一月刊)という批評集を出している。私は当時、清水氏が現代に至るまで長く勤めることになった日本大学芸術学部文芸学科の特別研究生で、学科事務の雑用に追いまわされていた。もちろん、学生の文学論の挑発に乗るくらいの余裕はあったので、清水氏とドストエフスキーの作品をめぐって論じあったこともある。しかし、氏は私の浅薄な作品評をさっさと見限って、この処女批評集に収められている「カラマーゾフの兄弟」論の原稿一三八枚を私に手渡した。「先輩、しっかり読めよ」ということだったが、私は「ジャーナリズム論」の講師だった岡本博先生(故人)のゼミ雑誌「出入り自由」創刊号(一九七〇年二月刊)から連載できるように段取りして、しっかり読んだことにした。批評集とゼミ雑誌が相前後して出版されたことから推測して、私がはじめて清水氏の作品に接したのは六九年頃だったのだろう。今もって私は氏の読者として最低だが、本の見返しに「此経啓助様 清水正」と青インクで丁寧に記された『ドストエフスキー体験』を大切にしている」とある。
先日、拙宅に此経氏が来られた時に、わたしが氏に手渡したという「カラマーゾフの兄弟論」の話になり、枚数を確認するため書斎に赴き久しぶりに生原稿を手にした。実に五十五年ぶりである。当時は原稿はすべて手書きで、コピーはあまり普及していなかった。せっかくなので紹介しておく。ついでにわら半紙に赤インクで書いた「悪霊」論も紹介しておく。
目次
「私」とは何か――死と祈りを巡って〈批評生活〉五十五年―― 清水正
Ⅰ マサシの空空空
マサシ外伝
マサシとドストエフスキー
運命は神の面をつけるか――マサシの『浮雲』論――
Ⅱ 清水正論
「全集」とアイデンティティ
「あちら側」のドストエフスキー論
続・「あちら側」のドストエフスキー論
「世間」にとらわれない男
続・「世間」にとらわれない男
両眼を潰さないオイディプス王
批評としての「スクラップ・アンド・ビルド」
文学という出来事
義理と公憤
Ⅲ 中心と周縁
ドストエフスキー体験
ドラえもんとロボット
松原寛先生の遺伝子
あとがき――「と」が結んだ友誼――
此経啓助(プロフィール)
1942年7月2日、戦中の東京生まれ。幼年時代の環境から「焼け跡野原派」を自称する。58年、都立石神井高校入学。FENから流れるラブソングに夢中になる。62年、理工系の大学入試に全敗し、日本大学芸術学部文芸学科入学。文学青年をはじめて知る。66年、卒論「湯川秀樹に於ける自然認識の方法」を提出し、同学部卒業。特別研究生・副手をへて、70年、同学部助手。全共闘学生と教職員の間でオロオロする。74年、退職し、インドへ。「遅れてきたヒッピー」と「サドゥ―(乞食僧)」が同じに見えたので、長髪を切る。76年、インド国ビハール州立マガタ大学大学院講師。79年、帰国後、フリーランスのライターを経験し、85年、宗教考現学研究所設立・所長。仏教関係の書籍編集やイベントに携わる。2001年、日本大学芸術学部文芸学科非常勤講師。3年、同学部教授。以後、大学人として生きる。12年、同学部非常勤講師(定年延長)。20年のコロナ騒ぎのなか退職、現在に至る。
[学術研究] 「小林秀雄におけるジイドの役割」(日本大学芸術学部紀要『芸術学』1号)、「明治時代の葬列とその社会的象徴性」(同『芸術学部紀要』40号)、「明治時代の文化政策と宗教政策」(同紀要41号)、「神道式墳墓とは何か1~14」(同紀要42~55号)。
[著書など] 『アショカとの旅―インド便り―』(現代書館)、『明治人のお葬式』(現代書館)、『都会のお葬式』(NHK出版)、『仏教力テスト』(NHK出版)、『東京お寺も~で』(共著/日本地域社会研究所)、『日本人のお墓』(共著/日本石材協会)、『図録・大チベット展』(編集人/毎日コミュニケーションズ)、『国際人事典』(編集人/毎日コミュニケーションズ)、『セルフ・ヘルプ・ガイド 創刊号』(雑誌編集長/西北社)……多数。
此経啓助氏 2024年8月23日撮影 清水宅にて 清水正