Chageニューシングル「クリスマス予報」レビュー | ただひたすらCHAGE and ASKA

Chageニューシングル「クリスマス予報」レビュー

 長いキャリアを積み重ねてきたアーティストの特権。
 それは、年月の経過と重ね合わせて過去の名作の続編を制作できることだろう。

 Chageは、1986年12月5日にチャゲ&飛鳥でクリスマスミニアルバム『Snow Mail』を発売している。
 まだアナログレコードだった時代だ。アーティスト名義だって片仮名と漢字だ。

 その中でA面2曲目に収録となった、Chage作曲の「ボニーの白い息」は、柔らかく温かいメロディーのバラードで、恋愛がいずれ実を結びそうな甘いラブソングだった。
 とはいえ、B面の「今宵二人でX'mas」がアップテンポでドラマチックな展開なだけに、優しく響く「ボニーの白い息」は地味な印象が残る。

 しかし、35年たった2021年11月24日発売の『Chage's Christmas』に収録となった「クリスマス予報」によって、にわかに「ボニーの白い息」がクローズアップされてきた。

 なぜなら「クリスマス予報」は、「ボニーの白い息」の登場人物のその後を描いているからだ。

 だが、時間軸どおり35年後を描いているかと言えば、そうではなさそうだ。

 「ボニーの白い息」は、アメリカの名作映画『俺たちに明日はない』の登場人物である強盗ボニーとクライドの真似をする若い男女を描いている。
 おそらく20代前半くらいのカップルだろう。

 女性主人公がクリスマスイブの夜に飲みすぎてはしゃぐ、帰りの坂道。教会から聴こえるアベ・マリアに合わせて鼻歌を口ずさむ女性とそれに口笛で合わせる男性。
 二人の口から出る白い息がクリスマスイブの寒さを際立たせる。
 女性が恋人に愛の告白をして、男性もそれに応える、というハッピーエンドの物語だ。

 クリスマスイブの厳かな街の雰囲気と愛を確かめ合う若い2人の光景が絶妙に重なり合う。

 一方、「クリスマス予報」では、逆に男性が主人公。クリスマスイブの帰りの坂道を描いているが、一緒に歩いているのは最近少し大人びてきた自分の娘。
 明日のクリスマスは雪が降るかな、と白い息を吐きながら予報する娘を眺めながら、男性は、若い頃、この坂道で、この娘の母とはしゃいだクリスマスイブを思い起こす。

 そして、あの頃から今まで進んできた道のりを回顧し、成長した娘の姿に、自らの信じた道が間違いでなかった、と確信するのだ。
 男性は、娘が予報するとおり、明日のクリスマスは雪が降るはず、と思いを重ねていく。
 モータウンビートを効かせたアップテンポなリズムがクリスマスイブに娘と街を歩く父親の心の高揚を表現する。

 きっと「ボニーの白い息」で恋していた2人は、当時20代前半。その後、恋を実らせて20代後半で結婚し、30歳くらいで娘を生んだ。
 その後、娘が成長して大人びた10代半ばくらいの現在が「クリスマス予報」となる。
 「ボニーの白い息」で主人公だった女性「わたし」は、「クリスマス予報」では「ママ」として描かれており、「ボニーの白い息」で「あなた」として描かれた男性は、「クリスマス予報」では主人公の男性で、「ママ」の夫でもある。

 そう考えると、「ボニーの白い息」から「クリスマス予報」までの期間は25年程度だろう。

 まあ、そのあたりの10年程度のずれは気にせず楽しめるのが創作というもの。

 1986年当時に作詞・作曲でコンビを組んでクリスマスソングを制作した澤地隆とChageが35年の時を経て、再びコンビを組んで続編のクリスマスソングを制作する。

 まさに2人ともがクリエイターとしての半生をしっかり歩んできた証である。
 10年後くらいには、孫とあの坂道を歩きながら白い息を吐いて会話するクリスマスソングが聴けるかもしれない。

 そのとき、この「クリスマス予報」は、伝説になる。
 そう予報しておきたい。