三カ月後に隕石がぶつかって地球が滅亡し、抽選で選ばれた人だけが脱出ロケットに乗れると決まったとき、人はヤケになって暴行や殺人に走るだろうか。それともモモちゃんのように「死ぬことは、生まれたときから決まってたじゃないか」と諦観できるだろうか。今「昔話」が生まれるとしたら、をテーマに直木賞作家が描く衝撃の本格小説集!!

 

 

とても上質な作品集でした。

 

タイトル通りに昔話が今生まれるとしたらと考えて書かれたそうです。

それぞれの物語がもともとあったかぐや姫や花咲か爺さんとかとわかりやすく似ているわけでは全くありません。

そこが三浦さんらしくてさすがと思うんですよね。

 

連作ではないんですが、それぞれの作品がほんの少しだけリンクしているのも洗練されているんですよ。

三浦さんって本当に頭の良い方なんです。

 

他の作品で言えば、『天国旅行』にみたいな雰囲気かな。

決して明るい話ではありません。

 

全7編

『ラブレス』かぐや姫

『ロケットの思い出』花咲か爺

『ディスタンス』天女の羽衣

『入江は緑』浦島太郎

『たどりつくまで』鉢かつぎ

『花』猿婿入り

『懐かしき川べりの町の物語せよ』桃太郎

 

『ラブレス』ホストが上客に誕生日プレゼントをもらうことからトラブルに巻き込まれる。

 

『ロケットの思い出』子供時代に川から拾った子犬ロケットと散歩をするうちに観察眼が磨かれて大人になってから空き巣になった主人公。たまたま忍び込んだ家がむかしの友人の家で…。

 

『ディスタンス』主人公と叔父の話。これは結構苦い。

 

『入江は緑』漁村から出たことのない主人公。ある日幼馴染の修ちゃんが恋人を連れて里帰りしてくる。

この辺りから全編を通した共通項の3ヶ月後に隕石が地球にぶつかるという事実が明らかになってくる。

 

『たどりつくまで』主人公はタクシーの運転手。ある変わった女性を乗せた話。

これが一番これといったストーリーがないのですがとても雰囲気がいいんですよ。私はかなり好きな作品でした。この主人公がどうも他の話の中の出来事に関係あるみたいなんです。

 

『花』とても短い話です。この本の中では明るい雰囲気だと思う。

 

『懐かしき川べりの物語せよ』この話は割と桃太郎っぽいといえばぽいです。ダークな桃太郎みたいな感じでさしずめ主人公は犬役だろうと思いますが、この主人公がユダなんです。

最後数ページは圧巻でした。

百助の「死ぬことは、生まれたときから決まってたじゃないか。いまさらだよな」はガツンときます。

 

作品の一番最初に

わたしを記憶する人はだれもいない。

わたし自身さえ、わたしのことを忘れてしまった。

胸のうちに、語り伝えよという声のみが響く。

これはたぶん、思い出のようなもの。

あとはただ、ゆっくりと忘れ去られていくだけの。

とあります。

これが作品の全てを表していることと思います。

 

かなり好きな作品だし、何度も何度も読む価値のある作品だろうと思っています。