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- バグ
- ある日少年は、右手の親指が腫れてきたことに気づいた。それは日に日に大きくなっていった。母親とともに病院に行くと、医者が言った。「指がクジラになってるね」そう言われてみれば、腫れた親指はクジラの形に似ていた。「切って海に放すしかないかな」原因は何かと少年の母親が尋ねると、医者は「…
超短編小説 トモコとマリコ2 -
- ペットショップ
- ペットショップの駐車場に、UFOが停まっていた。そういえば、あのペットショップでは、人間を売っていたな。
超短編小説 トモコとマリコ2 -
- やさしさ(冬)
- 雪が降った翌日、近所の小さな家の入口に、雪だるまが置かれていた。その夜、その家の前を通りかかると、雪だるまの顔が崩れていた。誰かが殴るか蹴るかしたらしい。翌朝、その雪だるまの傍の塀に、『殴らないで』と書かれた紙が貼られていて、顔が修復されていた。その夜、雪だるまの顔はまた吹き飛…
超短編小説 トモコとマリコ2 -
- やさしさ(夏)
- その街に引っ越して最初の年の夏のある日、アパートの郵便受けに、簡素なチラシが入っていた。『ホタルをみよう!』というタイトルが、野暮ったいフォントで書かれていて、場所と日時が添えられていた。子どものためのイベントなのだろうが、ホタルなんて本物を見たことがないから、俺も行ってみるこ…
超短編小説 トモコとマリコ2 -
- 用途
- ある日の昼下がり、パトカーのミニカーで遊んでいる息子に、母親が話しかける。「パトカー好きだね」「うん」「本物のパトカー見たくない?」そう言いながら母親は包丁を手に取り、無職の夫が寝ている部屋の襖に手をかける。ミニカーをじっと見つめていた息子はそのことに気づかないまま、「別に見た…
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- おしぼり
- うちの定食屋に、おばさんの客が一人で入ってきた。そのおばさんは、遺影を抱えていた。遺影にはおじさんが写っていた。おばさんは隅の席に座り、おじさんの遺影を、自分と向かい合うように置いた。私がおしぼりを一つ持っていったら、おばさんは「おしぼりもう一つください」と言ったので、もう一つ…
超短編小説 トモコとマリコ2 -
- 風邪
- 耳風邪をひいた。その影響で、あらゆる言葉が、愛の囁きに聞こえる。コンビニの店員の「いらっしゃいませ」が、電車の車内アナウンスが、赤ん坊の泣き声が、すべて「君を愛してるよ」に聞こえる。今年の耳風邪はたちが悪い。このままではどうにかなってしまいそうだ。耳をふさぎながら仕事を済ませ、…
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- 不健康
- 夏の夜、開け放した窓辺で、煙草を吸っていたら、一匹の蚊が、耳元でささやいた。「それ美味しい?」「吸ってみるかい?」「吸うものなの?」「吸うものだよ」「血より美味しい?」「それはわからないな」「じゃあ、いいわ」蚊は俺の首元にとまり、血を吸った。俺は煙草を吸っていた。去り際に蚊は言…
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- 君を思う心は
- 夏祭りに行った。赤い浴衣を着て、出店が立ち並ぶ通りを歩いていた。その中に、金魚すくいの屋台があった。私がその前を通りかかろうとした時、足元に、何か赤い物が落ちてきた。それは一匹の金魚だった。水槽から飛び出してきたらしい。金魚はびちびちと跳ねていたが、その目はずっと私を見ていた。…
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- 箱
- ドコドコ、ドコッ。近所のおじさんが犬の散歩をしている。正確には、そのおじさんは、油性ペンで『犬』と書き込まれた小さな段ボール箱に、ハーネスとリードを付けて、それを引きずりながら散歩している。きっと犬が飼いたいのだろう。そう思っていた。ある日、繁華街に遊びに行くと、ペットショップ…
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- 手品
- 「これは私の母です」そう言って手品師は、女性の死体を舞台上に引っ張り出した。「これを今から腐乱死体に変えます」そう言って手品師は、女性の死体に白い布を被せた。それからしばらく、私たちは固唾をのんで舞台を見ていた。そして数日後、いよいよ手品師が白い布を剥ぎ取った。綺麗だった死体は腐…
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- 愛の犠牲者
- 図書館に一匹のハエが入ってきた。ハエは何かに導かれるように、詩集が収められている書架に飛んで行った。そして一冊の詩集にとまった。するとページの間から、長い舌が飛び出し、ハエを捕らえて、そのまま再びページの間に納まった。数日後、その詩集に、ハエを栄養にして、一篇の愛の詩が増えた。…
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- ますます赤い
- 夜の飲み屋で、郵便ポストが酒を飲んでいた。ますます赤い。何かあったのだろうか。「顔なじみだった配達員の……」郵便ポストは言った。「……喪中はがきを入れられたんだ」あなたの家に、近日中に、酒臭いにおいが染みついた手紙が届いたら、その郵便ポストのせいだ。
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- 色々なやり方
- 「今夜から俺、近所の公園で寝るから」と父が言った。「どうして?」と尋ねると、父は私にお小遣いをくれた。「何のお金?」「広告料」「どういうこと?」「いびきに広告入れたんだよ」父はいびきがうるさい。それは悩みの種だった。父は、そのいびきに、葬儀社の広告を入れたのだという。「家の中で寝…
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- 風景
- 花が収監されている独房からは、良い香りが漂ってくる。鳥が収監されている独房からは、かわいい鳴き声が聞こえてくる。風が収監されている独房からは、涼しい空気が漏れている。月が収監されている独房には、優しい光が満ちている。この刑務所の外は、どこまでも殺風景だ。
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- 文字
- 残業で疲れ果て、ふらふらになりながら終電に乗り込み、座席に座った瞬間寝てしまった。しばらくして、降りる駅が近づいてきたことを知らせるアナウンスが流れてきて、はっと目を覚まし、手の甲で目をこすろうとした時、手の甲に、何かが書かれていることに気づいた。それはおそらく油性ペンで書かれ…
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- 地球ぅ~ぃ
- 「地球ぅ~、地球ぅ~ぃ」地球売りのおじいさんが、地球を積んだ小さなリヤカーを引きながら、午後の道を歩いている。この春から、神様になった子どもたちに、地球を売って歩いているのだ。「一つください、おじいさん!」ピカピカに輝いている小さな男の子が、おじいさんを呼び止めた。「君も神様にな…
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- 小石と部長
- よれよれのスーツを着た中年の男が、夜道をとぼとぼ歩いている。その表情は暗い。ふと、男のつま先に、何かが当たる。それは一個の小石である。男は、何となく、それを蹴りながら歩き始める。やがて男はふと立ち止まり、かばんの中から、油性ペンを取り出す。そして、蹴っていた小石に、『部長』とい…
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- 重い魂
- 放課後の校庭で、天使部の部員たちが、腕立て伏せをしている。重い魂を持ち上げるために、腕を鍛えているのだ。あれなら俺がいつ死んでも安心だ。相撲部の部員の一人は、密かにそう思っているが、体重と魂の重さが比例するのかどうかについては、若干自信がない。
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- それなら
- 宇宙服を着た人が、市役所にやってきた。その人は、離婚届をカウンターに置いた。離婚届には、氏名の欄に『太陽』と『月』と書かれていた。職員は尋ねた。「別れるんですか?」宇宙服の人はうなずいた。「どっちが出ていくんですか?」職員は尋ねた。宇宙服の人は、『月』の文字を指さした。「それな…
超短編小説 トモコとマリコ2 -
- スケッチ(ネコとネズミ)
- 飼いネコが、窓辺に座り、窓の下を流れるドブ川を眺めながら、タバコを吸っている。そのタバコの箱には、ネズミのイラストがプリントされている。煙は独特なにおいがする。ネズミのにおいなのかもしれない。「ネズミ、捕りに行かないの?」私が話しかけると、飼いネコは、「にゃあ」とつぶやいてタバ…
超短編小説 トモコとマリコ2 -
- ニンジン
- その死刑囚は、ある日、夕飯に出たニンジンを、食べずにそっと隠した。そして、その夜、布団からそっと抜け出し、窓の外に見える満月に向かって、先ほどのニンジンを差し出した。どうやら、ウサギを手なずけようとしているらしかった。この死刑囚は、ある誘拐事件の犯人だった。
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- リクエスト
- 砂浜に落ちている貝殻を、拾う。それに耳を当てる。砂浜に落ちている貝殻でしか、受信できないラジオ番組があるのだ。波の音が流れている。ああ、これは、先週私がリクエストした、故郷の波の音だ。私は目の前の海の波の音が聞こえないよう、もう片方の耳を手でふさいだまま、いつまでも泣いていた。
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- 星と生活
- バイトに行く時、自転車を漕ぎながらふと夜空を見たら、流れ星が飛んでいた。バイトを終えて帰る時、駐輪場にとめていた自転車の所に行ったら、前かごに、流れ星が入っていた。さっきの流れ星だった。偶然ここに落ちたらしい。大学院時代、星の研究をしていたから、流れ星の見分けはつく。取り出すと…
超短編小説 トモコとマリコ2
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